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澤村伊智『さえづちの眼』

  • 執筆者の写真: ゆずは 鳥乃
    ゆずは 鳥乃
  • 3月29日
  • 読了時間: 3分

※この記事には作品のネタバレを含みます。未読の方はご注意ください。



今回読んだのは『さえづちの眼』(角川ホラー文庫)です。


今回は中編集。表題作を含め三作品が収録されています。

どれも面白くて、なんとも言えない後味でした。



「母と」


お話の内容も面白いのですが、仕掛けられていた叙述トリックにまんまと引っかかったのがいっそ清々しかったです。自分の中にあるジェンダーバイアスを暴かれて素直に悔しいけど、でもやっぱり面白いんですよね。同作者の『予言の島』を思い出しました。あれはジェンダーバイアスではないですけど。

怪異の面ではすっきりしない不安感の残る終わり方で、個人的にはもう少し解決したぜ感がほしいところでした。でも琢海とお母さんの関係がこれから良くなっていく兆しが見られていて、それはきっと「オヅナエイコ」のおかげなんです。それなら怪異の面でもっとすっきりした終わり方、たとえば瑛子を除霊してしまうとかだとかえって後味が悪くなるような気もするから、これが一番丸く収まっているのかもと思います。



「あの日の光は今も」


未確認飛行物体の話のような、怪異のようなお話。

そして再び相まみえた辻村ゆかり。『ずうのめ人形』以来かな。この人の厄介な力のせいで、本来は存在しなかったはずの「はぎねのぬし」が現実になったのだと私は理解しました。それまではあくまでも伝承にすぎなかったのに、ゆかりのどうしようもない性格のせいで「はぎねのぬし」が誕生して、そして昌輝とその母親を殺してしまった。

ゆかりに対する不快感が私の中の感想の多くを占めていますが、作中の出来事を見事に辻褄合わせして、どんな解釈を選んでも筋が通りそうな話に仕上げているところは流石だなと思いました。



「さえづちの眼」


不死の苦しみを味わう話、といったところでしょうか。この母親も近いうちに必ず耐えられなくなると思っているのですが、そのときに琴子に助けを求めるのか、どうするんでしょうね。

個人的には琴子に助けを求めるだろうと思っています。だけどそのとき、琴子はどうするんでしょうね。相手がただの霊や化け物なら、多少いけ好かない相手でも生きている人を助ける方を選ぶだろうとは思っています。だけど今回の場合、蛇神に嫁いだ娘は人ではなくなったけど、じゃあ霊や化け物のように優先されない側になったのかと言われるとそうではない気がします。こういうとき、どちらの側に立つべきか直感的には悩んでしまうところがあるなと……。

まあもしそんな状況になったら、娘さんを倒すとか母親を見捨てるとかではなく、娘さんと話し合いをして解決しようとするのが最善なのかなと思います。

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