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有間カオル『魔法使いのハーブティー』

  • 執筆者の写真: ゆずは 鳥乃
    ゆずは 鳥乃
  • 3月29日
  • 読了時間: 2分

※この記事には作品のネタバレを含みます。未読の方はご注意ください。



今回読んだのは『魔法使いのハーブティー』(メディアワークス文庫)です。


まずはこの本を読もうと思ったきっかけから話しましょう。

ファンタジー好きの人間として、このタイトルには否応なく惹かれるものがありました。ストレートに「魔法使い」と書かれているし、「ハーブティー」というのも魔法とセットでファンタジーを彩る定番アイテムで、ファンタジー好きの心をくすぐります。

そして表紙がなんだか可愛いイラストで、たとえ読んでみたらファンタジーでもなんでもなかったとしてもきっと後悔しないだろうという予感がありました。

(残念ながら、タイトルのファンタジー感に騙されて期待して読んだのに別にファンタジーじゃなかった、というのはよくあることです)


そして読み始めましたが、予想通り後悔しない素敵なお話でした。

ハイファンタジーと呼ばれる、異世界を舞台にしたファンタジー作品ではないです。

現代日本を舞台にしたお話なんですが、ハーブティーを扱う喫茶店のマスターが、魔法のような不思議な力でお客さんや主人公の心をちょっとだけ動かしていく。まるで魔法のようだけど、魔法じゃなくて技術なのかなとも思えるような、それかちょっと不思議な変わった人なのか……。

でもそれが本当に魔法なのかそうじゃないのか、それは話の中でも、読者にとっても、それほど重要なことじゃない。大切なのは、その不思議な力が誰かの心を良い方向に変えたってことなんです。


私はけっこう強めに魔法に対する憧れを持っていますが、本物の魔法じゃないとしても、ハーブのことを勉強して、まるで魔法のように特別なことを起こしてしまえるあのマスターには魔法使いと同じような憧れの面影を感じました。

人を幸せにする魔法は、本当の魔法使いじゃなくても使えるってことですね。

まあ作中でマスターが言う「魔法」が、本当の魔法なのかそうじゃないのかは最後まで曖昧なままなので、本当の本当に魔法の可能性もありますが。でもやっぱり、それはどっちでもいいんです。

作中で起こる出来事はどれも現実的な嫌なことばかりなのに、なんだかすごくあったかい気持ちで読み終えることができました。みんなみんな、これから幸せになるんだろうなという予感があるからでしょうか。

読んだ私も魔法にかけられたみたいな、ちょっと不思議で素敵なお話でした。

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