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上橋菜穂子『獣の奏者』シリーズ

  • 執筆者の写真: ゆずは 鳥乃
    ゆずは 鳥乃
  • 3月29日
  • 読了時間: 2分

※この記事には作品のネタバレを含みます。未読の方はご注意ください。



今回読んだのは『獣の奏者』シリーズ全五冊(講談社)です。


マジで面白かったです。私はこういうファンタジー作品が大好きです。


読み始めてすぐは「あれ、これって児童向けの本なのかな?」と思ってしまうくらい、読みやすい文体だったのでどんどん読み進めていきました。最初に登場人物の紹介がわっと載っていたのも、なんとなく児童向け作品っぽい感じだったんです。

でも読んでいくうちに、これは全然児童向けじゃないなと思い直しました。内容に全然誤魔化しがないんです。最初のうちは視点人物であるエリンがまだ十歳くらいの子供なので、エリンが分からないこと、知らされていないことは当然描かれないです。子供の視点で話が始まったことで児童向けの印象を受けたのですが、話が進んでエリンが少しずつ成長し、世界の色々なことを知っていくにつれて、なんの誤魔化しもない現実が浮かび上がってくる。政治や戦争の話まで出てきて、しかもそれに否応なく巻き込まれていくエリンが読んでいても辛かったです。

でももちろん辛いだけじゃなくて、楽しい部分がたくさんあります!


この作品を読んで、世界を知って生きていくことの大切さ、それから世界を知ること自体の楽しさがビシバシと伝わってきました。

母から闘蛇のことを教わり、ジョウンから蜜蜂のことを教わり、カザルムで獣ノ医術や王獣のことを教わり……そしてエリンはそのすべてで、教わったことからさらに疑問を持ち、対象を観察してその疑問の答えを見つけていく。そのことがエリンにとってはすごく楽しいことなんだっていうのが読んでてはっきり伝わっていて、私まで楽しい気持ちにさせてくれる。読み終わるのが惜しいなって気持ちになりました。


エリン、願わくば自由を手に入れて幸せになってほしかったけど、結局それは叶いませんでした。えーん。

だけど、バトンを繋ぐことができたのは絶対に幸せなことだったと思います。命の代償として見つけた真実を未来に繋いでいくことは、戒律ノ民や残った人々にはできなかった(あるいはしなかった)ことだから、それを望んで実現できたことは、エリンにとっては幸せなことだった。本当はそれで変わった世界を見届けてほしかったけど……。


結論、めちゃくちゃ面白かったです。上橋菜穂子さんのほかの作品も読みたいと思います。

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