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染井為人『正体』

  • 1月17日
  • 読了時間: 2分

※この記事には作品のネタバレを含みます。未読の方はご注意ください。



今回読んだのは『正体』(光文社文庫)です。


映画化されているらしいのですが、私は見ていません。本だけ読みました。


この本は870ページほどあってたくさん読めました。私は電子で読みましたが、紙の本だったらだいぶ厚い部類じゃないでしょうか。

その約870ページがずっと緊張感に包まれていて、読んでいるうちに気づくと疲れているような状態でした。

なんせ、無実の男子高校生が冤罪で逮捕されて死刑判決を言い渡され、殺されないために脱獄して正体を隠しながら日本中を逃げ回るお話ですから、ドキドキしながら読むのも当然です。


物語はその脱獄犯の視点ではなく、彼が逃亡中に出会った彼の正体を知らない一般人たちの視点で語られます。

読者は「ああ、前の章と名前が違うけど、この登場人物が脱獄犯なんだな」と分かりますが、視点人物たちはそれを知らない状態から物語が始まります。


この小説を読んでいて感じたことは、登場人物がみんなとてもリアルだということです。

物語のために生み出された架空の人物のはずなのに、どこかで生きている実在する誰かのように思えてならない。

きっと一人ひとりの思いや悩みの描き方が、そういう風に思わせているんだと思います。他人事とは思えないような、どこかですれ違ったことがあるような、そんな不思議な感覚です。


だからこそ、脱獄犯の彼が最後に死んでしまったとき、私は自分でも驚くほどショックを受けました。なんでこの子が死ななければ、殺されなけれないけなかったのか。何の罪もない、何ならとても立派な、ただの高校生なのに。

死んでほしくなかった、生きて人生を取り戻してほしかった。作者はどうして彼を殺してしまったんだろう。

そう思いましたが、続けて作者によるあとがきを読んで納得しました。この本はキャラクター文学ではないんですよね。冤罪事件の理不尽さ、不合理さ、やるせなさ。そういうものを伝えるためには、物語の中で彼が理不尽に命を奪われることが必要だった。

うーん、納得。悲しいですけどね。


彼が死んでしまったあと、彼が逃亡中に出会った人たちが人生を前に進めながら、彼の無罪を勝ち取るために立ち上がるところはとても格好良かったです。彼も見てくれているといいなと思います。

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