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澤村伊智『ぜんしゅの跫』

  • 執筆者の写真: ゆずは 鳥乃
    ゆずは 鳥乃
  • 2月14日
  • 読了時間: 3分

※この記事には作品のネタバレを含みます。未読の方はご注意ください。



今回読んだのは『ぜんしゅの跫』(角川ホラー文庫)です。


「跫」ってなんて読むの? と思ったら最初のページに「あしおと」とフリガナが振ってありました。そしてよく見ると表紙にもフリガナがありました。


この本は表題作である「ぜんしゅの跫」を含めた全5作の短編集です。



「鏡」


シリーズ一作目『ぼきわんが、来る』の田原秀樹の過去の話です。

最初のうちはまだ視点人物の名前は出ないのですが、妊娠している妻に対する非常に不愉快な態度から「あーなんか一作目のあの男を彷彿とさせるな……実は本当にそうなのでは?」と思いながら読み進め、後で名前が出てきて推理が当たっていたことに自分で少し驚くということをやりました。

シリーズ作品はこうして前の作品に出てきた人物の新しいお話を読めたりするのが楽しいですね。まあそれで二作目のときに岩田くんが死んじゃって残念な気持ちになったんですが……。



「わたしの町のレイコさん」


都市伝説の「カシマさん」がモチーフになっているお話のようなのですが、私はカシマさんを知らなかったので、どこがどうアレンジされてるとかはよく分かっていません。

男性の陰茎を切断する話でした。ひょえ……。私は男性ではないのでその行為そのものに対する恐怖よりも、この短編内に登場する父親の方が怖かったです。こんな頭の悪い価値観を自分の子供に押し付けるおぞましい野郎が実在しないことを願いますが、事実は小説よりも奇なりって言いますからね……。



「鬼のうみたりければ」


うわあ、っていう感じでした。ありがちと言えばありがちなオチなんですけど、そう感じさせない面白さに惹き込まれる。この作者はそういうのが本当に上手いなと思います。

健太郎と輝さんはどこで入れ替わったんだろう。入れ替わった目的もよく分からないし。入れ替わって社会の中で生きていくつもりだったなら、最後に輝さんもいなくなっているのはおかしいですよね。ただ殺したかっただけ? よく分からないところは多いですが、このよく分からなさがホラーの醍醐味だなと思います。



「赤い学生服の女子」


ゾッとさせられるラストが印象的なお話でした。比嘉美琴が出てきて助けてくれて、辛い現実を目の当たりにしつつも希望を抱いて終わりを迎える……と思いきや、えー終わってないじゃん! というね。

古市と美琴とその家族の感動的なお話だと思ったのになあ。赤い学生服の女子が出るのは三ツ角学院大学病院だけじゃなかったのか。それとも古市が連れてきてしまったのか。はたまたマジで全部が古市の悪夢にすぎなかったのか……。



「ぜんしゅの跫」


最後は野崎、真琴、琴子の三人が揃うお話です。やっぱりメインの登場人物が揃うと読むのも楽しいですね。

シリーズ二作目のラストで野崎と真琴が結婚したじゃないですか。ちょうどその辺りのお話なんですが、当の二人は至っていつも通りで、むしろ琴子の方がよっぽど意識した言動をしているのがちょっと面白い。琴子ってそういうのいかにも気にしなさそうに見える人だと思っているんですけど、最後の妹と、その妹が選んだ人のことは分かりづらくとも大切にしてるんですね。時系列的にシリーズ四作目の後の話だと思っているので、そのときの決心を実践した結果なのかな。

みんなみんな上手くいって、幸せと思える人生になってほしいです。そうなるにはあの近辺は霊的な騒動が多すぎると思いますが。

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