宮部みゆき『ブレイブ・ストーリー 中』
- ゆずは 鳥乃

- 2024年12月21日
- 読了時間: 4分
更新日:2024年12月29日
※この記事には作品のネタバレを含みます。未読の方はご注意ください。
今回読んだのは宮部みゆきの『ブレイブ・ストーリー 中』(角川文庫)です。
前回の記事の続きです。
と、その前に、上巻の表紙に触れたいと思います。
表紙に描かれている鞭を持ったセクシーなお姉さんはカッツさんだったんですね。上巻だけ読んでもそれらしい登場人物は出てこなかったので、表紙について前回まではあまり気にとめていませんでした。でも中巻を読んでカッツさんを知った今、改めて表紙を見てみると、カッツさんすごい服装してたんだな……。この防御力の低そうな格好で湖の死闘を繰り広げていたことに驚きです。
ワタルはこんなセクシーな格好をしたカッコイイ大人の女性が目の前にいても、そういうことには全然まったく興味がないようです。でもミーナへの態度を見る限り、ワタルはセクシー派よりも可愛い派だということになるのでしょうか。
まあ、これ以上ワタルの女の子の好みについて掘り下げるのはやめておきます。面白そうではあるけれど。
そして中巻の表紙はきっとキ・キーマとミーナですね。
キ・キーマは勝手にワニみたいなマズルの長い顔をイメージしていたので、ちょっと意外です。すごくトカゲ。
一方、ミーナはイメージ通りの可愛いネコ。キ・キーマの肩に乗るのすごく似合うね。
さて、ストーリーの話です。
中巻の終盤で語られた通り、ワタルはこの幻界に来てから随分成長したなと思います。それは最初の「おためしのどうくつ」で得た勇気や知恵がそう見せている部分も確かにあると思うけど、それらを身につけたことだけを指して成長といってるわけではないんです。勇気と知恵がついたことで、ワタルは自分の頭で物をよく考えて、自分の意志で決断することができるようになったなと感じます。考えること、向き合うことから逃げなくなった。自分の責任で何かを決める覚悟が、段々と身についてきた。そういうところが、ワタルの成長なんだろうなと。
一方、ミツルは最初からそれができている子だったのでしょう。すでに色々なことへの覚悟が決まっていて、だから石岡たちを攻撃することも、周りのヒトたちを巻き添えにしながらあの森を吹き飛ばすことも、迷わず実行できた。ミツルの中では物事に対する優先順位が明確に決まっていて、最優先したいもののために優先順位の低いものを犠牲にする覚悟が決まっている。それが正しいことなのかは分かりませんが……。そんなミツルの心を映し出した幻界は、一体どんな世界なんでしょうね。見てみたいような、見たくないような……。お人よしのワタルを助けてくれるところから思うに、ミツルの世界にも他者を思いやる優しさが少しは存在していると思うけど、キ・キーマやミーナのように損得勘定なしに優しさを示してくれる人はほとんどいないんじゃないか? だとしたら悲しいね……。
ミツルは「おためしのどうくつ」で何を願ったんだろう。何を願ったらあんな大魔導士になれるんだろう。気になる、下巻で語られるかな?
話は変わりますが、ワタルは自分の心を映し出す幻界にやってきたことで、自分の心の中にある悪しきこと(憎しみや殺意、差別意識なんか)を目の当たりにすることになったわけですが、これは人間にとってすごく大切なことだよなあって私は思っています。バクサン博士も言っていたけど、そういうものは誰でも持っているもので、持っていること自体は仕方のないことです。だから、自分の中にもそういうものがあることを知ったうえで、それとどう向き合っていくのか、その向き合い方、扱い方こそが、その人がどういう人になるのかを決定する大事なことなんだと思います。
でもそれってとても難しいことですよね。まず自分の中に偏見や差別意識なんかがあるってことを認めることが難しい。それ以前に、自分の中にそれらがあるって気づかなきゃいけないのに、気づかないまま無意識のうちに偏見や差別を振りかざしている人がこの世には大勢いる。そういう一般的に悪いとされるものが自分の中にあるって気づいて、認めないことには向き合うことも変わることもできないのに、そのスタートラインにすら立てない人の多いこと。じゃあ私自身はどうなんだよって聞かれると自信を持って大丈夫とは言えないけど……。ワタルが幻界に来て、自分の心の中を知る機会を得たのは本当に幸運なことだと思います。
自分の中にある悪いものを目の当たりにしたワタルが、これまでの幻界の旅で成長したワタルが、まだ続く旅の先でどんな答えを出すのか。
下巻に期待です!
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